夢をかなえるゾウ2   (水野敬也著) [小説]

お馴染み、ゾウの神様ガネーシャのお話。
今回はガネーシャ、前作にも登場した釈迦、そして新登場の貧乏神が大活躍する。

相変わらず面白いし、一気に読める。

が、

前作に比べるとどうしてもインパクトに欠ける。
もちろん前作は「ガネーシャ」の風貌か関西弁のしゃべり、何から何までものすごいインパクトだったので、
そういう意味では仕方がないと思う。

しかし、内容そのもの。成功に至る過程も前作に比べるとイマイチぴんとこない。

設定もお笑い芸人なので、一般とは違うし、「芸人」と言うくらいなので、やはり成功するには生まれ持った才能が必要なのだと思う。
そう考えると、この設定には無理があるんじゃないか、と思ってしまう。

前回があまりにも抱腹絶倒で、一気にガネーシャファンとなった者としては、満を持して、「おぉっ」っとうなるような設定で登場して欲しかった、と。
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悪の教典 上・下   (貴志祐介著)‏ [小説]

映画化され話題にもなったが、
誰からも好かれ、人気No.1の教師・蓮実が最後には担当クラスの生徒を次々と殺害していく話。

基本的に「救い」はない物語。

彼は殺人鬼でさえない。

つまり、殺人や快楽が目的で生徒を殺していくわけでもない。

生徒を全員殺すことにしたのも、ある殺害の隠蔽工作に失敗し、最終的に「木の葉は森に隠す」のが一番だと言う結論に至り、森=死体の山を築くことを決意する。

つまり蓮実にとって殺人はひとつの手段であって、運動や日常の延長でしかないのだ。

恐ろしいのは表の顔である人気教師であるときは、「本当に」生徒に対して親身であり、
よい教師であろうとするところに「ウソ」がないのだ。

今までこの手の小説はちょっと頭のおかしい主人公や、作者がクスリをやっているのではないか、と
思わせるようなジャンキー小説(ジャンキーが主人公と言う意味ではなく)がほとんどだったのではないだろうか。

これほどまでに理路整然と人を殺すこと自体には何の感情もなく、殺戮を繰り返す、最凶最悪の主人公の誕生だ。

これは結構ヤバいかも。

これほど救いのない主人公ながら多分、蓮実はヒーローとなるのではないだろうか。

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RAIN DAYS   (浅倉卓弥著‏) [小説]

「四日間の奇蹟」著者が、デビュー前に描いていた物語。


「20代という長い間、僕はずっと霧のような雨に降り込められ、身動きすらままならずにいた」


最初の章で主人公の「僕」が語っているその言葉で、この物語の雰囲気は察しがつくのではないだろうか?
そういったモラトリアム的な小説を好まない人にはあまりお勧めできないが、個人的にはこういった雰囲気の作品は好きだ。

思うのだけど、こういう作品が嫌いって言う人って、なんだか少し「頑張りすぎてる」人が多いような気がする。
なんていうか、「俺は・私はこういう人」と思い込んでる、若しくは思いたい人というか。。。

余談はさておき。。。
風俗で働いていたワケありの佳織、その彼女の出現で主人公の「僕」の生活は急に濃密になる。
まるで春の長雨みたいだ。

と、言ってもさまざまな事件なんかが起こるわけではない。

何もなかった「僕」の生活に、生や心、誰かを愛する気持ちなどの濃密な時間が訪れるのだ。

まるで、乾いた空気を湿らせる雨のように。

その1つの象徴が音楽。

メンデルスゾーン、チャイコフスキー、そしてドビュッシーの奏でる調べが物語を彩っていく。

とてもいいなと思ったのは、佳織が風俗で働かなければならなくなった過去が最後まで明らかにならないのだ。

物語の重要なファクターであるにもかかわらず、でも「僕」にとってはそれは彼女を構成する要素のほんの1部のパーツであるかのように。

雨の日にゆっくりソファーで読みたい本。

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カデナ   (池澤夏樹著‏) [小説]

芥川賞を取った「スティル・ライフ」以来、池澤氏の本はほぼ読んでいる。

カデナ=嘉手納、いわずと知れた沖縄米軍基地の町。

舞台はベトナム戦争末期、カデナの基地からきたベトナムへ爆弾の雨を降らせるために
日々飛び立つ大型爆撃機B-52.

その攻撃を無力化するためにスパイ組織を作った見ず知らずの4人の話。

戦争や当時の沖縄、米軍の話となると暗くなりがちだが、池澤氏がインタビューで
「この小説は基地の中に入っていくわけで、外からの米軍糾弾ではない。いってみれば中からおちょくる話」と語っている通り、非常に軽快に描かれている。

確かに不思議な空気感だ。

主人公の1人は判明すればどのような罪に問われるかわからないスパイ活動にまるで「バイトのように」協力するのだ。

と、言っても物語はもちろん「痛快なスパイ小説」などではない。

テーマはやはり重く、10年以上沖縄に住んでいた池澤氏の思いも詰まっているのではないかと思われる。

思えば、68年は特別な、何か日本中が熱にうなされたような年だったのではないだろうか。

ベトナムや反戦、学生運動、はたまたヒッピーやセックス、ロックンロールまで、経験はしていないが誰もがエネルギーを感じずにはいられない。

上記の主人公の1人はあの時代を象徴する20歳くらいの若者だ。

そう考えると、この物語は「68年・あの時代」の沖縄版と言えるのではないだろうか。

彼が物語の最後に言う。


「68年はおもしろい夏だったな」

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宿命   (東野圭吾著)‏ [小説]

またまた東野圭吾氏である。

この作品は巻末の解説を見ると結構初期(デビュー5年目)のもののようだ。

にもかかわらずこの完成度はさすがだ。

ただ、そう言われてみると、最近の作品に比べ「奇をてらってない」というかストレートな感じはする。

それでも、もちろんストーリーは変幻自在、なんとな~く前半から病院での人体実験があったんだろうなぁ、と予想は出来たがその先、最後の結末などは想像もつかなかった。

思うに、この「その先」が東野氏の特徴というか東野氏たる所以ではないだろうか。

物語はある刑事とその高校時代の初恋の人、何をやっても唯一勝てなかった「なぜか気になってしょうがないが気に入らない」ライバル、が町を揺るがす事件により再び交錯する。

そこに、そのライバルの家が創始者である一流企業と、ある病院との謎が絡んでくる。

ちなみにこの作品発表当時のインタビューで「殺人事件があって、トリックがあって、犯人はこの人というような意外性だけの作品などいくつ書いても同じだと思う。その結果、作品がミステリーではないと言われてもいい。」というような事を話しているそうだ。

まさに現在の東野作品に通じている。

言ったことを実現できるってすごい。

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激流 上・下   (柴田よしき著)‏ [小説]

「私を覚えていますか?」

修学旅行で訪れた京都で行方不明になった女生徒・冬葉から20年後に届いた謎のメール。

35歳となり、離婚、リストラ、不倫、薬物依存などそれぞれさまざまな問題と向き合う6人の同級生が「激流」に巻き込まれていく。

京都が舞台と思い買ったが、物語はほとんどが東京。

そういう意味では期待とは違ったが、内容は期待以上に面白かった。

この6人の設定がいい。

リストラや不倫、離婚などに向き合いながらもそれぞれの「今」を生きている特別ではない人たち。

昔のまままっすぐな警部になった耕司。

そこに芸能人且つ作家としても成功している美弥というある意味特別な存在が効いている。

彼女は一度薬物依存で地位を失ったが、着々と復帰シナリオが作られ、再度の成功が約束されているかのようだ。

このあたりもよく聞く話という意味ではリアルだ。

謎のメール以降は6人に少し事件が起こりすぎる気もするが

サスペンス的でもあり、ミステリー要素もありで、上下巻併せて900ページという大作にも

かかわらず一気に読んでしまった。


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さよならドビュッシー   (中山七里著)‏ [小説]

「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。

基本的にミステリー好きではないが、「このミス」作品には面白いものが多いのと、
欧州に住むようになってからクラッシックに触れる機会が多いので、買ってみた。

結構話題になったのは知っていた。
だが、正直、読む前は「どんなもんかなぁ?」という期待と懐疑心があったので、同著者作の「おやすみラフマニノフ」は買わなかった。

。。。。

買っておくべきだった。

次回帰国時には間違いなく買う。

資産家の祖父の下、何不自由なく過ごしていた一家に起こる大火事。

全身やけどにもかかわらず奇跡の生還をとげ、全身の皮膚を移植しリハビリを行いながらコンクールを目指す少女。

それだけだと、いかにも「感動の話」になりそうだが、そこにミステリーが絡むので、お涙頂戴にはならず、かえってリアリティーが出てくる。

一方でミステリー自体が主題で進むわけではないので、ミステリーはちょっと・・・と、言う人にも楽しめる。

そして何より、やはり音楽の表現が圧巻だ。

ピアノが奏でる旋律が目に浮かぶようであり、ドビュッシーやベートーベンなど作者の思い・背景なども詳しく描かれる。

この本に沿ったCDがあればいいのに、と思う。

それでいて、やはりクラッシックはあまり・・という人にも読めるのだ。

もちろんミステリーとしても秀逸。

最後のどんでん返しはまったく予想がつかない衝撃だ。


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左岸 上・下   (江国香織著‏) [小説]

「冷静と情熱のあいだ」に続く辻仁成とのコラボレーション。


もう随分前の話だが、「冷静と情熱のあいだ」は辻仁成バージョンを読んで面白かったので
今回も辻仁成の書いた方の「右岸」を買おうと思った。
ところが、探したのがドイツに戻る成田空港の本屋で「左岸」しかなく、こちらを買った。

前作もいつか江国バージョン読んでみたいとおもってそのままになっていたし。。。

失敗した。

最近、こういった作品が多いような気がするのだが、
感想分かいっ!?っと思ってしまった。

もちろんこの本も賛否両論あるだろうし、好きな人も大勢いるだろう。

けど、個人的にはあまり面白くなかった、というか合わなかった。

まぁ、そもそも今回の設定自体が「?」という気もするので辻仁成バージョンの「右岸」を読んでみたいとも思わないなぁ。

前作に比べて売り上げはどうなんだろう?

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プラチナデータ   (東野圭吾著)‏ [小説]

いったい東野氏の頭の中はどうなっているのだろう。

今回のテーマは「徹底的に合理的な操作手法をする人物が、その方法によって自分自身を犯人だと断定せざるを得ない状況に陥ったらどうなるか」

物語が進むにつれて「あ~この方法があったか」と思うのだが、東野氏はそんなに単純ではない。

さらにその先に「仕掛け」が待っている。

今回は上記のテーマに中に遺伝子、しいては政府や官僚の関係する陰謀まで絡んでくるのだ。

単行本としては結構分厚い(約500ページ)方だと思うが、やはり一気に読んでしまった。

ちなみに今回、帰国中誰かと本の話をしていたときに「東野圭吾は最後が暗いので敬遠する人も意外といる」という話を聞いた。

もともと、かなり暗い、心が病んでる系が好きな自分にとっては東野氏の本がどこか暗いとは思ったこともなかったが。

どちらにしても氏の人気は間違いなく、この本も2013年映画化されるそうだ。

彼の本の映画化率がものすごく高いのもわかる気がする。

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スギハラ・サバイバル   (手嶋龍一著‏) [小説]

いわずと知れた元NHKワシントン特派員の著者による「インテリジェント小説」

ほとんどノンフィクションと言ってもいいかと思うが本人(だけ)がフィクションと言い張っているので一応ノンフィクションということで。

スギハラはこれまたいわずと知れた「杉原千畝」

戦時のリトアニアでポーランドを中心とする東欧諸国から逃れてきたユダヤ人に日本への出国ビザを与え続けた「日本のシンドラー」

このリトアニア経由という背景もすごい。

当時独ソ不可侵条約という破られることを前提とした条約の下、ポーランドを含む東欧諸国はドイツとソ連に”勝手に”分断された。

ドイツの支配下では当然ユダヤ人の未来はなく、ソ連の支配下でもシベリアで死ぬまで強制労働するしかない絶対絶命の危機に面していたユダヤ人。

そういった中、当時ポーランドの都市であった国境の町ヴィリュニスがリトアニアに「投げ与えられた」。

ヒトラーとスターリンがやがてソ連に呑み込まれる運命の小国の歓心をいっときだけ買おうとしたのだ。

その、「ほんの一瞬」=ヴィリュニスがリトアニア領になり、リトアニアがソ連の支配下になる前のほんの一瞬に6000人のユダヤ人がスギハラ・ビザにより命を救われた。

彼らを「スギハラ・サバイバル」と呼ぶそうだ。

この本はそのスギハラ・サバイバルで生き延びたユダヤ人とリーマンショックや9.11テロの裏を描いている。

以前同著者の「ウルトラ・ダラー」を読んだ時にも思ったのだが、NHKワシントン特派員ともなるとこれだけ情報が集まるものなのだと驚くと同時に感動する。

逆にこういった「インテリジェンス」を持った人たちとのコネクションがなければ勤まらないのかもしれない。

BBCの海外特派員の多くが実際「インテリジェント・オフィサー」といわれているくらいだから当然といえば当然か。

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