天才の栄光と挫折・数学者列伝   (藤原正彦著) [ノンフィクション]

実は数学者とか理学者の類が好きである。
3歳の時再婚する母親に置き去りにされたニュートン・20歳で決闘のため命を落としたガロワ・350年の難問に挑み苦悩したワイルズ・・・見出しを読むだけでわくわくする。

この本を最初読んだとき、まず思ったのはこの作者、史実・事実と感情が混ざった書き方するなぁ、と言うこと。
例えばニュートンの故郷を訪ねた時の文章は「私はすべての始まりであった尖塔を(生家から)探した。2キロほどしか離れてないが、土地の起伏のため見えなかった。私は安堵の深呼吸をした。リンゴの木が束の間の秋陽に輝いていた」と言うもの。
う~ん、感傷的である。

どんな人が書いてるのかと思って巻末を見たら、数学者とあった。
→ なるほど。
さらに読み進めると、なんとあの「国家の品格」を書いた人だった。
→ う~ん、以外である。
そして映画化もされた小川洋子氏「博士の愛した数式」は氏がこの本を読んだのがきっかけだそうだ。
→ それはすごい。

と、言う数学的論法(?)とともに読み進めると、情感的・感傷的なところも気にならなくなった。
むしろバランスが面白いかも。

ただ、「決めつけ」が多いのはちょっと。
ニュートンの錯乱に関するところで、様々な説を挙げた後、「これまでに挙げられてきたこれら原因は、主因と言うより誘因に見える。主因は、更年期障害ではないだろうか。」と言う文章の後、数学者の更年期障害についての記載が続く。
他の数学者の話でも「・・・と、言われている。いや、しかし、事実はこうではなかったか。」と言う様な文章がほぼ必ず出てくる。
いやいや一般的に言われてる方が正解なんじゃないの?とか思ってしまうのである。

しかしながら、そういったことを差し置いて、非常に面白く、出張の帰り飛行機が2時間も遅れてくれやがったおかげもあり、一気に読んでしまった。

しかし、数学の世界は何なのであろう。
生れてこの方、正真正銘文系道を歩んできたので、当然ここに書いてある数学的なものは理解できない。
が、どうやらわかったのは、数学は芸術となんら変わらない、ということだ。
ここに出てくる様な数学者は皆子供の頃から、幾何学の証明をしてみせたり、円周率を何桁も出して見せたり、もう生まれ持っての才能としか言えないのである。
例えば20歳で決闘でその命を落とすガロワなどは14歳で「幾何学の基礎」を読破し、定理を読むと同時に証明をしてしまったそうだ。
そして17歳の時には「循環連分数に関する一定理の証明」を仕上げ専門誌に発表している。
彼の倍以上生きてきたが、何の話かちんぷんかんぷんである。

そういえば、自分も中学生くらいまでは結構数学100点取ってたので、理系に進めば数学者になり得たのであろうか。
などと一瞬考えたが、まず無理だ。

と、言うのも彼らの探究心はもとより、集中力、忍耐力は人間の限界に近いのではないだろうか。

例えば「フェルマーの最終定理」と言われるものがあり、“3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせがない”、という定理のことらしいのだが、これを証明することが出来ないため、「フェルマーの予想」と呼ばれたそうだ。
そして、その証明の為に350年間世界中の数学者達が彼らの人生の大半、8年や10年かけて挑んだがことごとく挫折し、結果、彼らの全盛期をその証明に費やしたため、他の研究が出来ず、つぶれていったという、なんだかとんでもない話なのだ。

そしてその証明を完全に成し遂げたのがこの本に出てくる1人、ワイルズなのだ。

面白いのは彼がこの「フェルマーの予想」を証明するためにその過程で使った方式が谷山・志村予想と言う日本人の定理なのだそう。
ちなみにここにも「予想」と言う言葉が使われている通り、当初はこの定理=すべての楕円曲線はモジュラーである(なんのこっちゃ!!?)=も証明することが出来なかった為、「予想」となったそうなのだ。
この谷山・志村予想と言うのはラマヌジャン予想などと並び数論の中心的テーマの1つだそう。

実はこの谷山氏や志村氏だけでなく、数学の歴史上、日本人はかなり重要な役割をはたしているらしい。

と、まぁ理解できない単語や数学上の言葉は多々出てくるが、それがわからなくても十分楽しめる。

と、同時に「いやぁ、天才でなくてよかった」と安心できる本である。




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。