完全なる証明   (マーシャ・ガッセン著)‏ [ノンフィクション]

クレイ数学研究所「ミレニアム会議」において100万ドルもの賞金がかけられた数学会の未解決の問題7つのうちの1つ、「ポアンカレ予想」を証明したロシア人数学者の話。

7つの問題は永遠に、若しくは今世紀中に解決されることはないだろうと思われていた。
以前読んだ「フェルマーの最終定理」にしてもそうだが、解決・証明されないのに、「正しい」とされる定理が、一般人の自分にはよくわからない。
が、そこが数学の面白さたるや所以であろう。

2002年11月、1人のロシア人数学者、グレゴリー・ペレルマンがポアンカレ予想の証明をインターネット上に公開した。
もちろん過去に何人も「ポアンカレ予想を証明した」と発表する者は大勢いたが、ことごとくその証明が不備であることが判明している。
そしてこのポアンカレ予想に関して最後に大きな進展があったのはこの20年前、アメリカ人リチャード・ハミルトンと言う数学者によって問題を解くための方向性を示したものだ。
しかし、当のハミルトンも自分のプログラムはあまりにも複雑すぎてこれ以上は進めないと考えるに至っていたという難問。

ペレルマンのインターネット上の発表はやがて完全な証明であることが明らかになる。
しかし、ミレニアム会議は規定として「査読つきの専門誌」に論文を発表すること・掲載から2年を待機期間とし、その間に世界中で数学者が論文を精査して証明に間違いがないかを判定する、というもの。
これは数学会では当然で、インターネットだけに発表することが普通は考えられないことなのだそう。
にもかかわらず、「ペレルマンが“証明した”と発表すると言うことは確かに証明されたのであろう」と言う何人かの数学者の推薦により、多くの数学者・専門家の手によってこの証明が正しかったことが判明する。
そして、クレイ数学研究所は自ら定めた規定をまげてまで、ペレルマンに100万ドルを授与することを決めるのだ。

しかし、である。
ペレルマンは発表後、他の数学者が証明を綿密に分析した論文を検討することはおろか、それについて論評することすら拒否したのだ。
そして、世界中の一流大学から殺到したポストの申し出も全て断り、100万ドルの賞金も辞退する。
さらに、数学における最高の名誉であるフィールズ賞さえも辞退し、それ以降、数学者ばかりか、ほとんどすべての人との連絡を絶ってしまったのだ。

この本は何故彼がポアンカレ予想を証明できたのか、何故賞金を辞退したのか、そして何故数学を捨て、自分がそれまで住んでいた世界をも捨ててしまったのか。
その謎を周りの人のインタビューや生い立ちによって解いていく。
ちなみに彼は世捨て人なので、彼自身へのインタビューは数少ない彼の居場所を知る人を通じて何度も挑戦したのだが、不成功に終わっている。

彼の数学者としてのあまりにも完璧な頭脳(初めて出た数学オリンピックにおいて唯一4問すべて正解したとか)を読んでいると、もし彼がこの世界を捨てなかったとしたら、もしかして他の7つの問題の1つくらいは彼が証明していたのではないかと思う。
一方で、彼のその特異な行動、それはあの時代のソ連と言う体制に深く根ざしている様だ。
そういう意味では数学に全く興味がない人も、旧共産時代の東欧・ソ連に関する読み物としても十分面白い。

つい最近、サンクトペテルブルグに行ったのだが、表面上は今はその面影は全くない。
しかし、ペレルマンを苦しめた体制が崩壊したのはほんの最近のことだと、そして2002年に数学の大問題を証明した人がその体制に大きな影響を受けているのだと、その事実を目の前にすると愕然としてしまう。

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